馬が暴れてけが人が出たというニュースを聞いて
11月23日、島根県浜田市の障害者施設のイベントで馬が暴れ、けが人が出たというニュースがありました。当日のNHKとテレ朝系のニュースでは、馬は牝馬(雌馬)で、優しくおとなしい性格であることが紹介され、幸い怪我も命に関わるものではなかったということです。 でも、もし被害者が命を落とすような事故だったら、悪くすれば殺処分もあり得たと思うのです。 この施設では、近くの乗馬クラブの馬によるホースセラピーを行っていたといいます。この日は、収穫祭で、施設を訪れた一人を対象に、乗馬体験をしていたということです。よほどおとなしく性格の良い馬ばかりなのでしょう。暴れたとされる馬は、障害者のリハビリや交流を目的とするホースセラピーでは、とりわけ優等生の馬だったようです。スタッフも信頼する馬だったのでしょう。でも、まさにそこに落とし穴があったのではないでしょうか。 この馬はなぜか一頭だけ離れて、木(サンゴジュ?)の枝につながれていました。その枝が突然折れ、驚いたラブが走りだして、混雑した人の集団に突っ込んでしまったのです。 優等生であるがゆえに、この馬にはスタッフがだれも付き添っていなかったのでしょう。 「おとなしくて性格が良いから、一頭でも大丈夫」とスタッフが考えたのなら、それは大間違いだったと思うのです。おとなしいということは、裏返せば臆病だとうことです。いや、馬は基本的に臆病な動物です。先日NHKで放送したボクサーの内藤大介がカナダを旅する番組では、馬でトレッキングをしていた時、グリズリーがいるらしいという報告に、リーダーが「馬に寄り添え」と命じました。熊の気配に怯えて、馬がパニックを起こし、逃げ出してしまわないためです。馬を失えば、旅人は命を落とす危険がありました。 馬は臆病であり、パニックを起こすことがあるのだということを、馬を扱う人間は常に考えていなければならないのです。 一頭だけ離れて繋がれた馬を見て、お客さんは様々な反応をしたはずです。子どもが奇声を出したかもしれません。そして、馬は甲高い声に敏感に反応してしまうのです。そこに、信頼するスタッフの姿がない。ますます怯えて後退すると、枝が音をたてて折れてしまった。杞憂の故事ではありませんが、馬は逃げ出します。すると後ろから音をたてて追いかけてくるものがある。自分が引きずっている木の枝なのですが、そんなことはわからない馬はパニックで半狂乱になってしまう……。そんなことだったのではないでしょうか。 取材に馬房を訪れた記者の前のその馬は、本当に優しい目をしていました。そして、その馬を愛しているらしい女性スタッフも優しい人のようでした。 彼女や、他のスタッフも、このことを忘れないで欲しいと思います。仮に殺処分になったとしても、馬に責任はないのです。 唐突ですが、ぼくの馬の師匠だったYさんは、決してソーセージを食べませんでした。馬肉が入っているかもしれないというのです。彼が川崎競馬のジョッキーだったとき、騎乗した馬が転倒し骨折、再起不能と言われ殺処分になりました。殺処分になるということは、その馬が食肉になるということです。彼はジョッキーもやめて船乗りになったそうです。 生き物を相手にするということは、そういうことだと思います。
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