行列のできるスズメ食堂の話
スズメが激減しているそうだ。でもここ酒田市では、スズメは群れをなして元気に暮らしている。個人的意見だが、スズメは屋根瓦の下に営巣するので、瓦屋根がないところには住めないというだけのことではないだろうか。その点、地方の小都市には瓦ぶきの古い家がまだたくさんある。我が家の向かいの空き家にも、元気なスズメが一族で暮らしている。 毎日早朝、近所の電線に、スズメがずらりと並ぶ。彼らの一部は、電線の下にある家の庭木の枝で、騒がしくおしゃべりしている。ある時はカラスやキジバトが参加していることもある。しかしスズメたちが集まるのは一定の時間だけで、夕方もう一度、そんな時間があるようなのだ。 庭木のある家には、高齢のおばあさんがいる。10年ほど前は、我が家のビーグル犬が通りかかると、相好を崩してかわいがってくれたものだ。だが、その犬も年を取り、散歩に行く時も途中まで車で送迎するようになったし、おばあさんも足が弱って杖を突くようになり、あまり外に出てこなくなった。だが、スズメの集会にはきっとこのおばあさんが関わっているにちがいない。ぼくはそうにらんでいた。
そう思って観察していると、急にスズメたちが争うように庭に降りていく。塀があるためよくはわからないのだが、そのとき窓がさっと開くようだから、この時餌がまかれるのだろう。それだけではなく、なにやら声が聞こえてくる。おばあさんが、スズメに話しかけているのだ。あのおばあさんなら、それぞれに名前をつけていてもおかしくないなと思う。 そうしたらある夕方、おばあさんが杖をつきながら外に出ていた。ゆっくりゆっくり歩いて通用口に向かっている。すると、キジバトが一羽さっと飛んできて、家の屋根にとまった。 おばあさんが、歌うように話しかけている。「はとこちゃん、はーとこちゃん、降りてこねが。こっちさおいで。」
酒田でスズメにえさをやる家は、ここだけではない。町の住人は農家ではないから、スズメを敵視しないのだ。有名な米蔵、山居倉庫にもスズメが集まってくる。スズメは酒田の準市民といってもいいのだろう。別のある家にも、早朝からスズメが集まるのだが、ここのスズメはガラが悪く、ときどき扉に向かって跳びけりをしている。ここでは餌はただ投げ与えられるだけなのだろうか。「おーい、早ぐ開けろー!恵んでやるっていうからもらってやるけどよ、放り出さなくてもいいんじゃねえか?もう少し敬意をもってくれねえかな。オラオラ、早くよこせっての。」なんていうスズメの声が聞こえてくるような気がしたものだ。 一方こちらのスズメ食堂、人の好いおばあさんに対して、スズメたちも礼儀正しいようだ。電線のスズメもソシアルディスタンディング、つまり適度な距離を保ってとまっている。決してメジロ押しなどしないのである。
|