ドローンがちょっと心配になった
先日、冬の槍ヶ岳に登るドキュメント映像を見ました。下から人物を見上げていたカメラが、急に上昇し始め、やがて、天空から見下ろす映像になる。山頂近くの鉄のはしごにとりつく人物が、一瞬、まるで逆さにはしごを降りているように見えるのは不思議でした。 最近の番組は、ドラマ、ドキュメントを問わず、ドローンを駆使して、表現がバラエティに富んだものになっているのは、素敵なことだと思います。 しかしそのドローンが、時には野山の生き物たちを怖がらせてはいないかと、心配にもなるのです。
数年前の初春のころ、まだ雪の残る市内の自然公園に行ってみました。春の気配を見つけようとしゃれてみたのです。 除雪がされていない山道を、かんじきをつけて登っていくと、モーター音が響いています。電ノコで木の伐採でもしているのだろうと思って近づくと、そうではなく、ドローンが飛んでいます。球技場であるはずの雪のグラウンドで、試運転をしているのでしょう。生のドローンを見るのはこれが初めてでしたが、なりが小さいくせに、音の大きさに驚きました。 この公園は以前、道路建設のための盛り土を採取するために森の木を伐採するという計画が発表されて、反対運動がおこったところです。反対の理由の第一が、ここがオオタカの営巣地であるということでした。オオタカなどの猛禽類は冬から春にかけて営巣し、ヒナを育てるのだと、その時知りました。 オオタカは、かつて私の家の近くにある森にも営巣していました。しかし隣で高校の建設工事が始まると、翌年から姿を消しました。こわもての猛禽類ですが、思った以上にデリケートな生き物のようです。 猛禽類は、生態系の上部に位置する要の生き物です。森の静寂を破るたった1機のドローンは、その均衡を破ることになりはしないかと、とても心配になりました。 同じことを、スノーモービルでも感じています。私も仕事をしていたころ、バイクを楽しんでいたので、スノーモービルは楽しいだろうとは思います。でも、これもまたけたたましい音をたてる乗り物です。生態系保護のため、スノーモービルを制限するエリアを設けるべきではないかと思ったものです。 雪の世界は、一見、生き物たちが冬ごもりしていて、地上で活動しているものはいないように見えるのですが、実は多くの生き物は活動していて、中には営巣や出産の季節という種類もいるわけです。
宅配にもドローンが使われる計画があるといいます。あの轟音がトラブルを引き起こすことはないのだろうかと気になります。 もっとも、近ごろサルやシカ、あるいはクマが、いてはならないところに出没するという話もありますから、漁師の鉄砲に代わって、ドローンでかれらを怖がらせ、教訓を与えると言うのなら、それは大いに検討すべきなのかもしれませんが。
ドローンが世の中に登場したのは、中東の戦場で使われているという無人飛行機としてでした。その時は偵察に使われていたのだと記憶しますが、爆撃や機銃射撃にも使え、無人であるゆえに葛藤なく「敵」を殺戮できる。将来はドローンとロボット兵士が戦争を行うのだと。 そんな罪深い出自を持つドローンが、今なお罪なき生き物たちを怯えさせているのかもしれないということは、考えておかなければならないことではないでしょうか。
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