ラーメンと天の川
酒田の名物(B級グルメ?)はラーメンだそうだ。隣接する鶴岡市の男声合唱団が、酒田の合唱団との合同演奏の練習に酒田に来た時、「せっかくだからラーメンを食って行こう」と言っていたから、それなりに有名で評価も高いのだろう。たしかに市内にラーメン店は多く、それどころか蕎麦屋やレストラン、中華料理店までがラーメンののぼりを掲げている。 中華料理店にラーメンはあたりまえだなどと言わないでほしい。学生時代、横浜の中華街でラーメンを注文した友人が、こっぴどく叱られたものだ。ラーメンは中華料理じゃないと。 それはともかく、ぼくは酒田のラーメン店には入ったことがない。申し訳ないが、わざわざ行列をしてまで食べたいとは思わないのだ。スーパーで買った中華麺と自家製のスープで作るマイ中華麺で十分満足だ。そもそもラーメン店以外の店の「ラーメンあります」は、プライドを捨てているようで痛々しい。 観光でにぎわいを取り戻したい酒田市は、新幹線を酒田まで延伸することに希望をつないでいる。山形新幹線を新庄から陸羽西線経由で酒田に伸ばす。あるいは上越新幹線、または北陸新幹線を金沢から新潟まで伸ばした後に、新潟から羽越線経由で酒田まで伸ばす。)ぼくは新幹線には賛成できない。市民ならだれもが新幹線延伸に賛成だと思っているらしいことが悔しい。そして、新幹線が来れば当然客が来ると思っていることも。 陸羽西線は単線で、最上川の渓谷のあぶなっかしい線路を走る、景色だけは滅法すばらしい路線だ。新幹線を通すなら用地整備が大工事になるだろうし、風光は破壊されてしまう。観光の目玉を破壊しては客の誘致は望めまい。 羽越線もしかり。新潟県の笹川流れの美しい日本海を望む路線は、山形県に入ると険しい崖に迫られる。わずかな土地にしがみつくように集落があり、農地、墓地、そして国道、鉄道が寄り添っている。津波が来たらどこに逃げるのだろうと心配になる。ここにそのまま新幹線を通すことは難しいだろうし、この荒涼とした光景こそ旅情を刺激するはずだ。 実は首都圏から酒田など庄内地方に来ることは、現在でもさほど不便ではない。飛行機なら羽田から庄内空港まで1時間で来られる。しかし、帰省客やビジネスで使う人は多くても、観光客の利用は伸びていないようだ。なぜだろう?魅力がないからでは? だって、酒田の何を見たい。そりゃ出羽三山というか、羽黒山やら月山登山、鳥海山登山はいいとして、他に何がある? 写真家の土門拳の記念館、北前船で栄えた商家、豪商本間家の本間美術館、どれもイマイチかもしれない。土門拳も一度行けば満足というところか? そこにラーメンじゃなあ。ひと押しがたりない!食の都庄内と謳っているのに、ラーメン?残念だなあ! 本当に魅力ある街なら、新幹線がなくて不便な旅でも、むしろその不便さを楽しめるのに。地元目線でなく、旅行者目線で考えないといけないのだろう。たとえば地元ではやっかいものでしかない雪も、首都圏の人には、珍しく楽しいものだ。そんな魅力を本気で創らねば。酒田以外のどこにでもあるラーメンはひとまずあきらめて。 1970年代、夏に初めて酒田に来た時、夜空に天の川が見えて感激したものだ。いまよりはるかに人口が多かったはずだが。過疎化が進む今、住宅は9時過ぎには寝静まったように暗いのに、夜空は無駄に明るい。郊外型のショッピングモール、過当競争気味のパチンコ店、街灯のLEDが無駄に光を放っているためだ。光害を減らし、笠を工夫して街灯の光を空に向けなければ、あの星空は復活できそうな気がする。「星空の見える町」は岡山県井原市の美星町など、いくつかが名乗りをあげているが、まだまだ少数だ。そこに加われたら「おいしい庄内空港」やら「ラーメンの街酒田」よりは観光の目玉になりそうじゃないか?
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