早朝のミステリー……移動する異常な音
雪ならば散歩にも行けるのに、今朝は昨日より気温がやや高く、冷たい雨が降っている。散歩はあきらめるか、朝食後もう一度天気を見て、行けるようなら行くことにしよう、そう決めて朝食の準備を始めた。すると…… 「あれ何の音?」と連れ合いが聞く。たしかにかすかにビーンという振動音が聞こえる。どこだろう? テレビ? いや、キッチンのシンクのあたりだ。 いつか、常時換気のために壁に取り付けてあるファンの一つが異常音を出し、取り換えたことがある。冷蔵事故がガス漏れし、危うく犬を死なすところだった。急いで買い替えたのだが、町の電気屋さんの若い従業員に、「犬どころか人も危険だったんですよ」と叱られた。責任はメーカーにあると思うのだが、命に係わることだし、言っても始まらないが。 とにかく異常な音は要注意なのだ。 だが音に近づくと、少し離れた所に移動している。音の発生源が移動?こんどは冷蔵庫の方で聞こえている。いや違う、脱衣場にある換気モーターらしい。でもそこに行くとまた別の場所から聞こえる。 2階か? いや2階に行ってみるとなんの音もしない。連れ合いも上がってくる。「ここでは聞こえないよ。」「うそ、聞こえてる、ほら。」「あれ、ほんとだ!」 「じゃあ、3階の隠し部屋は?」「 いやここじゃない。」「いいえ、聞こえる。」と連れ合いが梯子を登ってきて言う。 おかしいな、聞こえなくなった。いや、下の階から聞こえる。壁の中で鳴っているみたいだ。しかもその音が絶えず移動する。音の聞こえる方向に行くと、いつの間にか移動している。それも壁の中から聞こえるようだ。何があるのかわからないが、それが過熱でもして火事になったら大ごとだ。 家を建てた大工さんは一昨年急死したので、配線がどうなっているのか、壁の中がどんな仕組みなのか、5カ所の換気モーターがどうなっているのか、電気系統は誰が知っているのかを聞くことができない。バンドを時々サポートしてくれるドラム奏者が、幸い建築士だから聞いてみようか? それにしても、何かが不具合だとしても、なぜあちこちに移動する? 不安が募る。もうこれはオカルト的なミステリーではないのか。去年死んだ迷犬ハッチが、まだそのあたりにいて、文字通り迷ってウロウロしているのかもしれないと、本気で考え始めていた。 「ほら、今はこのあたりで聞こえる」と連れ合いが壁に耳を当てる。「いや、聞こえない。そっちに移動したよ。」とぼく。「あれ、今はこのあたりだ、まるできみのポケットの中で鳴っているようだぞ。」と指さすと……? その指に振動を感じる。なんだこりゃ? 連れ合いのポケットの中になにかある。電動カミソリ……それが振動していたのだった。ああ、一件落着。 いやいやよかった、ハッチじゃなくて。あいつのせいかと本気で考え始めていたところだったよ。朝飯、作らなきゃ。
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