青信号で横断するカラス
あの暑さはどこへやら。台風が通過した直後から、酒田は気温が急降下した。20℃を下回るとストーブが欲しいと思うほどだが、昨日は真夏、今日は冬という具合で、体がついてゆけない。 森のリスも、秋モードになって、クルミを埋めようとして忙しそうだ。
ところで先日、郊外の大山街道を走っていて、あやうくカラスを轢きそうになった。そのカラスはガードレールにとまっていたのだが、急に舞い上がり、道路の中心付近で急降下し、それから地上を2・3歩走ったのだ。後続車がいるから急停止はできないし、減速するだけにとどめ、あとはカラスの回避行動に賭けた。幸いカラスは、難を逃れてくれたのでほっとしたのだが。 あの行動は、きっとクルミを割ろうとしたのだろう。落とす高さが足りず、落ちたクルミが割れないでころころ転がったのだ。あわてて追いかけたところに車が近づいた。あるいは、車に轢かせようとしたのかもしれない。車の直前に落として割ろうとするカラスを、近所で見かけたこともある。 カラスのクルミ割りは、生きるためではない。彼らにとってスリリングな遊びなのだと確信している。 以前、高校のグラウンドでサッカーごっこをしているとしか思えないハシボソガラスのことを報告したけれども、カラスは人間の行動を興味深く観察しているのではないだろうか? 近ごろよく見るのは、横断歩道を渡るカラスだ。早朝、散歩するために車で森の入り口にある駐車場に向かうのだが、その途中の坂道にある横断歩道だ。 ここには、このあたりを縄張りとするハシボソのカップルがいる。このカップルは近年、営巣して子どもを育てることもやめてしまったらしく、いつも2羽が一緒に行動している。ただし、駐車場でクルミを割っているのが、彼らの片方だとすれば、その間、片割れは姿を消している。呆れてつきあいきれないということなのかもしれないが。 この横断歩道は私たちから見れば登り坂の途中にあるので、遠くからでもよく見えるのだが、時々、カラスが渡っている。もちろん彼らにちがいない。しかしなぜ歩いて渡る必要がある?翼を使えばすぐに渡れるのに? 時々、渡り切らないうちに車が追いついてしまう。しかたなく徐行するのだが、カラスは悠然と渡り続ける。 徐行しないでそのまま走っていく車もある。カラスは仕方なさそうに「よいしょ」とばかりに飛び上がる。そのあたりの呼吸は心得ているようだ。 最近ではカラスから見て青信号の時に渡っているように見える。ただの偶然かもしれないが、鳥は色がわかるから、案外信号の色を識別して渡っているのかもしれない。 酒田には、スズメにこっそり餌をまく人がちらほらいる。スズメばかりかカラスにえさをやる人もいる。知っているだけでも老舗の肉屋さん、お寺の前の写真屋さんなど。見るからに年寄りらしい太った大きなカラスが、店の前にたたずんで食べ物を待っている。 写真屋さんは、「遺影を撮ります」という、自分が亡者の扮装をしたポスターを張り出しているくらいだから、カラスはお似合いなのかもしれないが。 カラスは、明日のことを思い煩うことなく、今が満ち足りて幸せであることを追求する生き物であることは確かだ。
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