森で、見る人もなくひっそりと咲いているアジサイの花を訪れている見慣れない蝶がいました。でも、この裏翅の色や模様はどこかで見覚えがあります。地元のニュースで見た希少種の「チョウセンアカシジミ」がこんなでした。でもまさか。
あれは内陸の最上地方のごく限られた場所にしか生息していないはず。でも、かつては庄内にもいたという人もいます。
自宅の図鑑にあたったら、いわゆるゼフィルス、つまりミドリシジミ類の裏翅には、よく似たものが多いらしいとわかりました。
かのドクトルマンボウこと北杜夫も憧れの的だったという小さなミドリシジミは、翅の表が美しいものが多く、また木の梢のあたりを飛ぶので、なかなか目にする機会がないのですが、こんな姿をしているのだとわかりました。
ところで最近、気になってしかたがない言葉があります。「科学的根拠」です。
経済産業大臣や官房長官が口にするあれです。福島の発電所の壊れた原子炉を冷やした汚染水から放射性物質を取り除いたけれど、トリチウムは残るので、安全とされる濃度まで薄めたというあの水です。
それを海に捨てるという。地元漁協はもちろん大反対です。「風評」でまた魚が売れなくなることを恐れるからです。個人的には「風評」という言葉が適切だとは思わないのですが、売れなくなることは確かでしょう。消費者は、ケチがついたものを危険を冒してまで買わなくても、他の海で獲れたものを買えばよいのですから。いや、海産物を買う量を減らせばすむことですし。
これまで漁師がどれほど苦しんだのか、最初は漁が禁止され、種類を限定して試験操業し、必ず線量検査をして出荷するなど、血のにじむ努力を重ねてきて、ようやく商売として軌道に乗り始めたところだったのに。
安全性に科学的な根拠があるかどうかに関わらず、これまでの努力が無に帰すことが明らかなのだから、反対することは当然だと思います。
そもそも「科学的根拠」とは、どんな根拠なのでしょう。つまるところ、この濃度以下なら安全だと「専門家」が安全だと言っている、としか聞こえません。では「専門家」が安全だという根拠は何でしょうか。どれほどのデータがあるのでしょうか。
福島では甲状腺癌や白血病が以上に増えていると言います。「専門家」は、事故による放射線が原因であるとは考えにくいそうです。スリーマイル島やチョルノービリ原発の事故で得たデータが示す被ばく線量と、癌や白血病の発症数とが合わないからだそうです。
それなら福島ではなぜ多いのかという疑問には、明確な答えがありません。人体実験をするわけにはいきませんから、過去の数少ない事故しか参考にならないのに、そのわずかなデータが「科学的根拠」です。
政府高官や「専門家」が言う言葉を、そのまま盲信することは決して科学的な態度ではありません。
ところで、今回海に流そうとしている「汚染水」は、安全なレベルまで濃度を下げていると言いながら、さらに海水を混ぜて濃度を下げて放出するのだそうです。そのための装置を海底に作っているというニュースを先日見たのですが、つくづく「子どもだまし」だと怒りすら感じました。海水を取り込んで汚染水に混ぜ、それを海に流す? 最後の工程は、あってもなくても海に流す総量は変わらないと思うのは、どこか間違っていますか?
海は無限に広いから、核のゴミはいくら捨てても構わない? じゃあ海洋プラスチックは問題にならないとでも? こういうのをダブルスタンダードというのではなかったかな?