カルボナーラとアクアパッツァ
2月ともなると、休日の街には、どこからともなく大勢の人が出てきます。横浜の上大岡でアパート暮らしをしていた20代のころ、「ヒトも啓蟄を過ぎると湧いて出てくるのだな」なんて妙に感心したものです。 アパートは丘の上にあったのですが、休日にはぼくも駅前の繁華街に繰り出したものです。巨大なゲームセンターのビルの前に、小さなイタリアレストランがありました。とある事情でひどく心が傷ついたとき、人恋いしさのあまり、しばらくこの店の常連になったことがありました。レストランとはいえ、スナックに近い店でした。 若い姉妹が切り盛りしていて、それだけでも華やいだ雰囲気の店でしたが、ぼくの名が「ケン」だとわかると、「あら、うちにはメリーがいるんだけど、付き合ってもらえる?」と、自宅から連れて来ているコリー犬の散歩を頼まれることも。当時、日産自動車が「愛と風のように」の歌をバックに、ケンとメリーのスカイラインのCMを流していたころです。 傷心の複合的な理由のひとつが、入り浸っていた乗馬クラブが経営事情から埼玉県に引っ越したことによる、スタッフや馬、ルームメイトだった犬たちとの離別でしたから、喜んで引き受けたものです。 あるとき、姉妹が「こんなものができてしまったんだけど、試食してくれないかな」と言います。それはパスタが堅焼きそばのようにかたまってしまった料理?でした。「カルボナーラ」といい、レシピに従って卵と粉チーズをからめ、最後に加熱したらこんなものができたと。店主たちにわからない料理が、ナポリタンとミートソースしか知らない当時のぼくにわかるはずがありません。そんなものかと思って食べてはみたのですが、正解を知らないのですから、コメントのしようがない。まあなんとものんびりした時代でした。(何十年も後にテレビで見ると、出来上がりは全く別の料理でしたね。試してみたのですが、ぼくの方がうまくできたと思います。加熱が問題でした。温めるだけでよく、卵黄を生のまま保たないといけなかった。)姉妹もその後、顔から火が出る思いをしたかも。
ところで今住んでいる酒田には、「おすそ分け」の文化が残っています。バンドのリーダーのOさんは実家の畑で作る野菜を届けてくれるし、近所の人は港で揚がったエビや魚を届けてくれます。この人は、底引き網の水揚げを手伝っているらしいのです。 先日いただいたのは、小ダイとカナガシラ、アジが数匹でした。カナガシラというのは、ホウボウに似たトゲの多い赤い魚で、武士の町、隣の鶴岡では、角張って堅い頭を冑に見立てて、縁起の良い魚として珍重するそうです。しかし、料理法は限られていて、我が家でも酒田風にみそ汁にしていました。つまり、内臓とうろこだけ取り除いて、姿のままみそ汁にするのです。具はカナガシラのみ、出汁も使いません。(因みに、庄内では名物の枝豆、ダダチャマメマメも、昔から殻つきのまま汁の実にします。これも枝豆オンリーです。) 魚の話にもどります。さすがに、いただくたびに同じ料理法では新鮮味がない。なんとかならないかと思って思い浮かんだのがアクアパッツア。魚を使う漁師料理だったはず。でも見たことも食べたこともない。それでネットでレシピを検索。便利な世の中です。 簡単でした。魚を(姿のままでも切り身でも)、オリーブオイルで裏表を焼き、ニンニクとアサリ、トマト、白ワイン、水を加えて数分煮るだけ。 なるほどそれなら簡単。いただいたカナガシラと小ダイ、トマトがないので水煮のトマトパック、冷凍したマッシュルームとスライスしたカブ。アサリも冷凍したむきアサリがありました。カブに火が通ったら、最後に乾燥パセリ、乾燥オレガノを振って完成です。 魚をいただいたら、またやってみようかな。
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