チャップスに続いて今回はハットについて。
子どものころ、週刊少年雑誌には、ウェスタンに関する特集が組まれることがよくあり、そこでは西部の男がかぶる帽子はテンガロンハットというのだと説明されていたものだ。この帽子は万能であり、あるときは枕、あるときはバケツ代わりになる。水がちょうど10ガロン入るのでテンガロンハットと呼ぶのだと。この話はまゆつばかもしれない。コロラド出身の知人にはテンガロンハットという言葉は全く通じなかった。ウェスタンハットと呼ぶべきなのだろう。(カウボーイハットでも通じるが、カウボーイというのは最も蔑まれる職業としての蔑称でもあるということは知っておいたほうがよさそうである。前科があるかもしれない、教養のない下品な男の代名詞といったところか。ウェスタン映画を見れば、牛追いの牧童とガンマンがいかに嫌われていたかがわかる。)
ウェスタンハットとブーツは、今でも西部の男の代名詞らしい。ブッシュ元大統領(息子の方だ。バカブッシュと呼ぶ人もいるが。)も愛用しているのではなかろうか。
しかし、ハットが今のような形になったのは、開拓時代ではなく、ハリウッドでさかんに映画が作られるようになってからのようだ。特にステットソンというメーカーのものが愛用され、今でも日本のウェスタンマニアはステットソンにこだわっているらしい。(因みに、ジーンズはラングラーのブーツカット。これは縫い目が当たって腿の内側がすりむけにくいと言われている。)
ウェスタンハットの最大の特徴は、鍔の両サイドが上向きにカーブしたUFOのような形。これがかっこよく見えるというので、子どものころ、日射病防止にかぶらされる麦わら帽のつばをくるくると巻いて、カーブをつけたものだ。
しかしよく見ると、前後は下向きにカーブしている。西部男はベッド以外ではハットを脱がないと言われているが、脱ぐときには逆さに置くのだそうだ。そうしないとこの下向きのカーブがなくなってしまうからだ。なぜならこのカーブは伊達ではなく、実用的なものなのである。
ウェスタン乗馬を始めた時、このカーブが何のためにあるのかがよく分かった。野外騎乗で走っている時、このカーブが吹きつける風をうまく逃がしてくれるのだ。下向きのカーブによって、風の一部がハットをうまく頭に押しつけてくれ、左右の上向きのカーブが残りの風を左右に逃がすのだ。
そのため、ハットは自然に目深なかぶり方になる。和製西部劇のヒーローたちが好んだ、おでこを出すあみだかぶりでは、帽子が吹っ飛んでしまいかねない。
それほど大切なハットを、枕にしたりバケツにしたりすることはあり得ないと思われる。もっとも開拓時代には現代型のハットはなく、ソンブレロなど思い思いの帽子を使っていたのだろうけれど。
ハットはフェルトでできているが、ヘルメットのように硬い素材であり、カップの部分は大きくできている。ヘルメットのようにではなく、ヘルメットそのものなのだ。フェルトは湯気を当てると柔らかくなるが、ドライヤーを当てると元通りに固くなる。そこで、新しいハットは必ずきつめのものを選び、やかんを沸騰させて湯気を当ててからかぶり頭になじませる。そのうえでドライヤーを当てて固くし、数日間被ったままで過ごす。こうして自分のハットを作るのだ。
ハットは目が釣り上がるほどきついのだが、そのために乗馬では落ちにくい。ストラップをつけても良いのだが、現代のウェスタン乗馬の競技ではストラップは禁止されていて、ハットを落とすと失格になると聞いた。(どんな理由か知らないが、まあ一種の美学のようなものなのだろう。)
ハットの頭頂部には凹みがある。これをクリースという。一般のハットはクリースが水平だが、写真のハットのクリースは前に傾いている。これをモンタナクリースというそうだ。雪深いモンタナでは雪がハットに積もらないように傾斜があるというのだが、真偽のほどは不明である。モンタナクリースは古風な印象があり、オヤジ臭くて、個人的には好きだ。
因みに、高級なハットほど素材のフェルトにビーバーの毛を多く含むという。水棲のビーバーの毛は水に強いのだそうだ。前述のステットソンのハットは、内側に☓印が刻印されているが、☓が多いほどビーバーの含有率が高いのだそうだ。