ぼくの家は大通りに面していて、路地の入り口でもありました。その路地の数人の子どもたちの集団にはガキ大将もいて、遊びを計画し、みんなを率いていました。
あるとき彼が、原っぱの瓦礫の下から黒っぽい変な虫を見つけて、オケラというのだと教えてくれました。そして「オケラ、オケラ、お前の◯◯どれほどでかい?」と、その虫に言ったのです。すると虫は、返事をするみたいにギザギザの前足を大きく振り回しました。
ガキ大将な「オケラ、オケラ、ケンちゃんの◯◯はどれほどでかい?」
オケラはやはり小さな前足を振り回します。
アハハと笑って、オケラを逃がしてやりました。
慕われていたそのガキ大将は、私立学校に通うことになり、ぼくに次のガキ大将を引き継ぐことを託しました。しかし、グループの子どもが本当に少なくなってしまったことや、女の子が半分以上いて、遊びを計画することが難しくなったことなど、苦労が絶えませんでした。(なにしろ、チャンバラとお姫様ごっこを同時に満たさなければならないのですから)オケラをからかう遊びは女の子の前ではできそうになく、二度とオケラに出会うこともなかったのでした。
少し大きくなると、なぜか家にあった民話の本のなかに、子どもたちがオケラを相手に遊ぶ話がありました。それは◯◯の大きさをからかうというのではなく、「明日のお天気なあに」とか尋ねるというものでした。オケラが大きな丸をつくると「明日のお天気、上キチキチ」とはやすのです。これには続きがあって、遠くでモズが「キチキチキチ」と高鳴きをする。すると子どもたち「やっぱり明日は上キチキチ」と歌うというものでした。
いずれにしても、声をかけるとまるで答えるかのように前足を振り回すケラは、子どもたちの格好の遊び相手だったようです。
きのう、街はずれの川の土手道で、何年ぶりかでケラをみつけました。田起こしが始まったので、田んぼから逃げ出してきたのかもしれません。(ん?難民?)懐かしさに家に招待し、モデルに¥なってもらいました。どうです、凛々しいでしょう?
暖かい地方では、そろそろオケラが鳴き始めるころでしょうか?どこからともなく「ジー」という声がして、近づいていくと、声が遠ざかっていきますね。地虫などとも呼ばれ、当時の大人たちは「あれはミミズが鳴いているんだ」とまじめに教えてくれたものでした。