早朝や夕方はうつむいているチゴユリだが、昼間は上を向いていることに気がついた。小さいからチゴユリと思っていたが、花の形から稚児髷の稚児かもしれない。(チングルマという花があって、その名は稚児車からきているという。実の形がやはり稚児髷だ。いや、むしろ茶筅髷かな。)
アマドコロ。
マムシグサの花。
ツリバナの花。
葉を背にしているのは、そのほうがピントが合わせやすかっただけ。長い柄の先に花がついている。しかし、名前の由来は秋に実る赤い実で、これが5つに分かれて花のように見える。マユミの仲間だが、マユミより柄が長く、花も実も吊り下がっている。(マユミは花弁が4枚、実も4つに分かれる。)
今朝外に出ると、どこかで大工事をしているのかと思うような「ゴーッ」という音が響いている。たぶん海鳴りの音。嵐を伴った低気圧は昨日通り過ぎたが、海はまだ荒れているのだろう。海鳴りがうるさく聞こえるほど、この町は静かだ。
先日、森を散歩中、樹の枝にとまっている小鳥に気がついた。おっ?腹が白い。頭と背中が黒い、いや青い。オオルリだ!カメラを持っていなかったが、近づいても近くの別の枝に移るだけで、遠くに行かない。
そのオオルリは、今年まだ声を聞いていないが、他の野鳥たちは日替わりで森にやってくる。北へ、または山に向かう夏鳥が、旅の途中に立ち寄るのだろう。
センダイムシクイ、エゾムシクイ、クロツグミ、コマドリ、コルリ。留鳥のウグイス、アカハラも合唱に参加している。遅れて渡ってくる托卵鳥のツツドリやジュウイチも鳴いた。
ジュウイチは名前の通り「ジューイチイ、ジューイチイ」と繰り返して鳴く。次第にテンションが上り、切羽詰まった鳴き方になってはたと止まる。親が姿の見えない子を呼んでいるような切実さがある。「呼子鳥」という言葉が浮かんでくる。古歌などに登場する謎の鳥。ホトトギスのことという解釈もあるが、ホトトギスは古代の貴族もよく歌に詠む。呼子鳥の正体は、ジュウイチにちがいないと、ぼくは勝手に想像している。
野山で聞こえてくる野鳥の声を聞き分けるのは、足を止める必要もないし、おじさんが持っているとあらぬ疑いをかけられそうな双眼鏡もいらない。
野鳥の声が聞き分けられたら楽しいだろうと思ったのは、以前、仕事で箱根に下見に行った時だ。ちょうど5月中頃。金時山から桃源台まで、外輪山を縦走するコースは、全山鳥のさえずりであふれていた。しかし、ほとんど聞き分けられないのがとても残念で、姿など見なくても、せめて何の鳥が鳴いているのかわかったらいいのにと思った。帰って、当時の女性校長にぼやくと、
「私の父は日本野鳥の会の会員だから。」と言って、カセットテープを貸してくれた。NHKのラジオ番組を録音したもので、親切な解説がつき、聞き分け方のポイントも教えてくれたのだった。
野山の草花の名前がわかると、世界が広がったような気持ちになる。それと同じで、野鳥の声が聞き分けられると、そこが特別な場所になる。カメラで撮影できなくても、双眼鏡を持たなくても、足を止めなくても、簡単に野山と親しくなれる。お試しあれ!